今日取り上げるのは、京都市で、難病の女性から依頼を受けた医師2人が薬物を投与し女性を殺害した事件についてです。
林優里さん(当時51)が亡くなり、宮城県の医師・大久保愉一容疑者(42)と東京都の医師・山本直樹容疑者(43)が逮捕されました。
世間の注目度も高く、多くの議論がなされているこの事件。
Twitterの履歴などからは林さんが強く”死”を望んでいたことをうかがい知ることができ、
「生きる権利があるなら、死を選ぶ権利があっても良いのではないか」
「この機会に日本でも尊厳死の問題をもっと議論すべきではないか」
と言った声も上がっています。
そもそも嘱託殺人と殺人の違いは何なのか。
今回は、林さんと医師らが知り合った経緯や犯行当日の医師らの行動、世間の人々のこの事件に対する見方などをまとめていきます。
合わせて嘱託殺人と殺人、安楽死の違いについても改めて整理していきますので最後までお付き合いください。
京都市 ALS患者嘱託殺人事件の概要は?
事件については、すでに多くの報道が出回っています。
ここでは、FNNプライムオンラインの報道内容を参考に事件の概要をまとめます。
- 2019年11月、宮城県の医師・大久保愉一容疑者(42)と東京都の医師・山本直樹容疑者(43)は、林優里さん(当時51)の依頼を受け、京都市の自宅で、薬物を投与し殺害した
- 林さんは、全身の筋肉が動かなくなる難病「ALS」を患い、以前から、SNSで安楽死を望む内容を書き込んでいた
- 犯行時、林さんの家にはヘルパーがいたが、2人を「知人」と伝えて、部屋の外に出るよう促していた
- その際、2人が滞在したのは10分程度だったことから、事前に、SNSで林さんと入念な打ち合わせをしたうえで、犯行に及んだ疑いがある
- 林さんは父親の前では「死にたい」というそぶりを見せたことはなかった
引用 https://news.yahoo.co.jp/articles/4ebc75015604e45bf2a3a2b378d4bfe882cb8b70
参考動画はコチラ↓↓
続いて、容疑者についての情報です。
容疑者①
名前 大久保愉一(おおくぼよしかず)
年齢 42歳
勤務先 仙南中央病院(宮城県柴田町)
家族 妻は元衆院議員の三代さん(43)

引用 https://news.yahoo.co.jp/articles/17d5b8b226cdae49c3eec368b859b9f00dbf5fed/images/000
Facebook 同姓同名のアカウントは複数見つかりましたが、本人のものとみられるアカウントはありませんでした。
Twitter すでに報道されている内容から見て、コチラのアカウントが大久保容疑者のものと見て間違いありません。(@mhlworz)

気になるのはこの2人の医師の接点ですね。
宮城と東京で勤務先も異なる二人がどうやって知り合ったのか?
これについては以下の説が有力です。
2人の医師の接点
- 大久保容疑者は約20年前、弘前大医学部(青森県弘前市)に在籍。山本容疑者は同じころ、別の大学の医学部に在籍していた
- 2人は医学部の学生が集まる勉強会などを通じて知り合ったとみられている
- ただ、その後の交友関係は不透明な点も多い
引用 https://www.jiji.com/jc/article?k=2020072800899&g=soc
これが本当であれば、二人は20年来の友人ということになりますね。
林さんは「お金を払ってもで死にたい」といった書き込みをしていたこともあり、実際に事件前には山本容疑者の口座に合わせて130万円の振り込みをしていたことも明らかとなっています。
問われる罪と世間の声
現行法では、「死にたい願望」を持つ人の依頼でその人を殺害した場合には刑法202条の「自殺関与及び同意殺人」が適用されます。
(自殺関与及び同意殺人)
第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。(引用元:刑法第202条)
林さんのご親族が「いやいや、これは立派な殺人だよ」と訴える一方で、ネットでは以下のような声が非常に多く上がっているのが印象的でした。(Yahoo!ニュースのコメント欄から引用)
ご本人は海外に行って安楽死を希望してたんだから、少なくとも満足…とはいかないまでも、救われたと思ってるんじゃないかな。
医師たちはヘルパーに会ったのなら、当然捕まることも覚悟してただろう。
この女性は生き地獄を味わっていたのかも知らない。
ベッドの上で何の為に生きているのか分からなく成ったのかな。
生きる権利同様、人生を終わらせる権利も重要だと思う。
ただ、医者がお金を貰っていたのは解せないな。
自分の死を自分で決める安楽死制度も認めてほしい。
少子高齢化に伴い、「介護」の問題が大きな社会問題となっている日本では、このような「尊厳死」の問題は今後も盛んに議論されるようになるだろうと思います。
「24時間介護されなければいけないような状態で、これ以上生き続けていたくない」
という気持ちがある一方で、本心ではやはり「死ぬのは怖い」と思っている部分も否定できないはず。
さらには、保険金目当てで家族が偽装工作する可能性なども否定できないため、慎重な議論が必要な問題だと感じます。
今回、二人の医師がしたことが正しかったのか間違っていたのか、それは簡単にはジャッジできないでしょう。
ただ、「130万円受取っていた」というところに違和感を覚える方は多かったかもしれませんね。
そうまでして”終わり”にしたかったのだという林さんの強い意志を表す証拠とも言えますが、主治医でも何でもない医者が「報酬をもらって手を下した」というのは、やはり多少なりとも犯罪のニオイを感じてしまいます。
そもそも、「殺人」「嘱託殺人」「安楽死」「尊厳死」の違いは?
今回の事件では、医師たちがしたことがただの「殺人」かそれとも「嘱託殺人」か、あるいは尊厳死か・・・で刑罰が違ってきます。
そもそも、それらはどう違うのか?
それぞれの定義を改めて比較してみましょう。
殺人
人を殺すこと。
引用 https://kotobank.jp/word/%E6%AE%BA%E4%BA%BA-511093
嘱託殺人
被害者の依頼や同意により、殺害する行為をいう。
引用 https://kotobank.jp/word/%E5%98%B1%E8%A8%97%E6%AE%BA%E4%BA%BA-534230
安楽死
- (1) 積極的安楽死,(2) 間接的安楽死,(3) 消極的安楽死,の三つに分類される。
- (1)は苦痛を除く手段がない患者の命を薬剤投与などで意図的・積極的に縮める行為
- (2)は苦痛緩和療法で麻薬などを与えた結果として死期を早める行為
- (3)は苦痛を長引かせないよう医療行為を控えたり延命治療を中止したりして死期を早める行為
- (3)は尊厳死と同義とする見解もある。
国内外で社会的に問題となるのはほとんどが (1)の事例であり、自殺幇助(→自殺関与罪)あるいは殺人(→殺人罪)との区別が難しい。
引用 https://kotobank.jp/word/%E5%AE%89%E6%A5%BD%E6%AD%BB-29702
尊厳死
過剰な医療を避け,尊厳をもって迎える自然な死。
引用 https://kotobank.jp/word/%E5%B0%8A%E5%8E%B3%E6%AD%BB-90589
この定義から見ると、今回の場合は「嘱託殺人」あるいは「積極的安楽死」が該当するでしょう。
自殺幇助を許可しているスイスなどでは、安楽死は違法ではありません。
林さんは「尊厳死」を強く望んでいたわけですから、法律的にそれが許される国であったならば結果はまた違っていたでしょう。
少なくともこのように多くの人を巻き込む形での事件にはならなかったはずです。
まとめ
以上、京都市で起きた嘱託殺人事件についてまとめました。
ポイントを整理します。
- 宮城県の医師・大久保愉一容疑者と東京都の医師・山本直樹容疑者は、林優里さんの依頼を受け、薬物を投与し殺害した
- 難病ALSを患っていた林さんは、以前からSNSにて安楽死を望む書き込みをしていた
- 日本では自殺を助けることは法律で禁じられているため、たとえそれが本人の希望であったとしても手を下した者は罪を課せられる
- 他国をモデルに、日本でも尊厳死の議論をもっと活発にすべきである
もし自分が、病気や加齢で24時間の介護を受けることになってしまったら・・・。
想像してみると、やはり「そこまでして長生きしたいとは思わない」「家族に負担をかけたくない」「できればさっさと終わりにしたい」と思ってしまいます。
おそらく多くの方が同じ気持ちでしょう。
全ての人がどんな状況でも前向きに頑張れるわけではありませんし、「辛いから死にたい」と思うことは自然だしそれはその人の自由です。
しかし、それが自分以外の誰か(例えば家族や恋人)のことだとしたら、やっぱり「どんな形であっても長く生きていて欲しい」とも思う・・・。
医療の進歩に伴ってかつてに比べて”死”をある程度までコントロールできるようになったからこそ生まれてきた、非常にデリケートな問題だと思います。
人は何のために生きるのか?・・・というテーマに加えて、これからは「人は誰のために生きるのか?」ということももっと議論していくべきですね。
残される人の自己満足のための延命だったら、全く意味がないと思います。
人生は、究極的にはやはり最期までその人自身のものなのですから。
亡くなった林さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
最後までお読みいただきありがとうございました!